第2回 Whereabouts Records 竹内一弘代表に訊く

ハンガリーの音楽シーンとは?その他興味深いお話あれこれ

はじめに

今回お話を伺ったのは、国内外問わず良質な音楽作品をリリースしているインディーレーベル「Whereabouts records(ウェアラバウツ・レコーズ)」代表の竹内一弘氏。

日本は元より、ハンガリー・フランス・アメリカなど様々な国のアーティストからリリース依頼が相次ぐ異色のレーベルの内実とは?

そもそもレーベルとはどういう仕事をするものなのかという基本的な話から、ハンガリーの音楽事情、海外から見た日本の音楽シーン、ビジネスとして、または音楽家としての音楽への携わり方など、多岐に渡るお話を聴かせていただいた。

レーベルは誰でも始められる

――― まずはWhereabouts Records(以下WR)の成り立ちから教えてください。

竹内 : 2010年の2月、特に理由もなく思い立って急に始めました。レーベルって許認可事業ではないので、自分で「レーベル始めました」って言えば、その瞬間に立ち上げたことになるので何のハードルもないですし。だからこそ、今は雨後の竹の子の如くインディレーベルが乱立しているわけです。

――― 自分でレーベルを作って「こういう人たちの作品をリリースしたい」というビジョンが明確にあったわけではないのですか?

竹内 : そう、準備期間もなく「始める」って言ってすぐ始めた感じです。始めてから、所属アーティストもいないし誰か探さなきゃって感じで…。昔から大好きだった日本人のアーティストで「ゆいこ」という人がいて、その人の作品を出すことは目標でしたね。それは実現しましたけど。

――― でもリリースされている作品の方向性はわりと一貫性があるというか、そんな行き当たりばったりには見えませんでした。

竹内 : 確かにうちではアンビエント系の作品を出してはいるのですが、個人的には元々そんなに興味がないジャンルだったんですよ。何かのきっかけで知って、いろんなアーティストと知り合って輪が広がっていったんです。うちから出してるのは基本的に彼らの方から「CD出したい」って言ってくるパターンですね。今まで僕が自分から出してくださいってお願いしたのは、ゆいこと…ゆいこだけかな?

――― 海外のアーティストもそうなんですか?

竹内 : そうです。「アンビエント・ミュージック」というジャンルの音楽は、わりと海外に広がりやすいんです。変な言い方だけど敷居が低いんですよ。アンビエント・ミュージックそのものの音楽のクオリティは問われないというか。クオリティって言うと語弊があるけど、一般的な音楽じゃないので、自分が「これが良いんだ」と言って出したものは、それがもう正解なんですよ。他人が文句つけるもんじゃないんです。

――― 確かにブライアン・イーノのアンビエントにしても、万人ウケする音楽とは思えません(笑)。

竹内 : そうすると今度は世界中に無数の個人レーベルがあって、そこで出したいとか、あっちで出したいとか、そういう交流が盛んになってくる。そうやって世界に広がりやすいジャンルではあるわけです。

――― さっきも言いましたが、全体的にリリースしている作品の傾向として、アンビエントとかエレクトロなど、クールな雰囲気のものが多いですよね。これは自然にそうなったんですか?

竹内 : 僕の好みです。

――― デモが送られてくる中で、リリースしたいと思えるものにたまたまそういうタイプが多かったと。

竹内 : そうですね。始めた当初は「とにかく出したい」っていう気持ちの方が強くて、デモを持って来てくれた人との縁を大切にして、基本的に出す方向で動いていました。でも今はもうデモもいっぱい送られてくるし、自分がちょっとでもダメだなと思う要素があるものは出さないようにしています。基本的にクオリティが高いものだけを扱いたい。

クオリティが高いっていうのは、録音状態がいいとか演奏が上手いとかそういう風に捉えられやすいけど、そんなことは全然関係ないです。本当に信じられないくらいしょぼい機材で作ってても、才能があれば何でもできますから。

WRのイチ押しアーティスト、Morningdeerは機材とか何も持ってないんですよ。ほとんど持ってない。でも関係ないです。あの人は天才だから。

――― 年間でリリースのオファーはどれくらい来るんですか?

竹内: 今(WR始めて)4年で200件くらいなので、年間50件くらいですね。一週間に1回とか?

――― 50切るって言ってもそうやって聞くと結構なペースですね。
個人でやる場合、本当に良いと思ったものだけを出せるのはメリットだと思うんですけど、逆にデメリットって何でしょうか。

竹内 : 個人のデメリットは、やっぱり宣伝ができないことですね。お金が無いから。どんな良い音楽でも、宣伝しないことにはね…。あと、音楽情報サイトや音楽レビューサイトも一見さんには書いてくれなかったり、そもそも音楽の内容以前にメールしても返事が来なかったり、そんなこともたくさんあります。そういうところが問題といえば問題かな。

アメリカには「ピッチフォーク」っていう有名な音楽情報サイトがあるんです。そこはもう20年くらいやってるのかな?そこで取り上げられたらアメリカで大ヒットみたいな。

――― へー!

竹内: そこはね、「来る者拒まず」でちゃんと音楽聴いて、良いか悪いか判断してレビューで取り上げる。だからもの凄くハードルは高いけどチャレンジする価値がある。ちょっと日本にはそんな感じのサイトは無いですね。


ジンボ アラタ
Author ジンボ アラタ 90 Articles
東京都出身。日本工学院八王子専門学校コンピューターミュージック科卒業。その後は音楽とは別の道へ進むが、再び音楽の世界になんらかの形で関わって行こうと決意し、2007年より音楽イベントのオーガナイズを始める。