【ディスクガイド】ギターの探求者たち

従来のギター表現の解体、そしてその先の地平へ

はじめに

初回は、特定の個人ではなくギターという世界で最もポピュラーな楽器の1つに焦点を当ててみることにした。

あらかじめ断っておくと、私を含めた多くの人にとって、ギターに対する認識というものは西洋音楽の文脈に基づいて形作られているため、(西洋音楽の文脈から外れた)特定の地域においてはむしろ伝統的とされる音楽や奏法を、うっかり「これはニュー・ミュージックだ」と言って紹介してしまう可能性は否定できない。

だからもしそのようなことがあっても、生暖かい目で見守っていただきたい。どうぞよろしく。

『Inventions For Electric Guitar』 – Manuel Göttsching


まずはどうしても外せないのがこちら。
ロック史における重要なギタリストとしてジミ・ヘンドリクスを表の代表選手とするなら、マニュエル・ゲッチングは裏の代表選手だと個人的には思っている。

本作はジミヘンの系統とは本質的に全く違ったアプローチでギターに向き合っている。
ギターの楽器としての可能性をとことん追求し、結果的にはギターを解体してみせた作品とさえ言えるだろう。

通常、ロックギターの音は優れたものほどギタリストの姿が明確に浮かび上がってくるものだが、こちらは作品に没入すればするほど聴き手の脳裏からはギタリストの姿が薄れていき、音の海に沈みこんでいくような感覚を覚える。

フロアで踊る聴衆がトランス状態に入った時にDJの存在を忘れるように、ギタリストの存在を忘れさせてしまうこのアルバムが「テクノの原型」とも呼ばれるのは至極納得がいく。

『Guitars Undressed』 – Various


7人のギタリストたちによるオムニバムアルバム。タイトルを直訳すれば「装飾を剥がされたギター」といったところだろうか。もはや楽器と言うより音の発生装置としてどれだけのことがギターに出来るのかを追求したようなその解体ぶりは、『Inventions For Electric Guitar』の更に上を行く。

10分以上ひたすら通奏低音が流れ続ける瞑想音楽的なM1「ICON VS.ICON」に始まり、続くM2「s.t.a.c.t.e.3.b.e.d.i.t」などは、もはやそうだと知っていなければギター作品などと誰も思わない、完全なる電子音楽である。唯一ホッと一息つけるのはM5「Time Of Tomorrow」くらいか。

決して快楽的なアルバムではない。が、一面においてはもはややり尽くされ、テクニックや音色の追求以上に個性の探し場所が見い出しにくくなりつつあるギターの表現において、全く独自のルートで未踏の地の提示を試みる意欲作だ。

『FLECT』 – 内橋和久


アヴァン・ミュージック・ガイドの文脈に沿って言うと、内橋和久という人は作曲家とインプロヴァイザーの間を自由に往来しているタイプの音楽家だ。さらにダクソフォンなる楽器の日本唯一の奏者とも言われている。
それだけでも取り上げる価値があるのだが、生憎と私は氏についてはそんなに知らないので、実際に聴いたこのアルバムについてのみ語る。

このアルバムも『Guitars Undressed』と同様に、スタイルを放棄して音の追及に終始した作品と言えそうだ。そもそも音の発生装置としてギターを用いることにも格別こだわっていないように思われる。
ただ、『Guitars~』よりも体感的な聴き方を想定した作品のように感じられた。例えばホールに様々な照明装置、映像装置が配置されており、発せられる音が電気信号に変換されて照明や映像が反応する、といった風に。

ちょっと調べてみたところ、この『FLECT』の続編にあたる『FLECT Ⅱ』というアルバムのリリースパーティでは、天井を含めて立体的にスピーカーを配置してライブを行ったという記録を目にした。聴き手との双方向性がFLECTというプロジェクトのテーマに含まれているとすれば、音源だけでなくライブも込みで体感してみなければ、全てを語ることはできそうにない。

『Electric Counterpoint / Different Trains, Electric』 – Steve Reich


ライヒと彼の作品についてはアヴァン・ミュージック・ガイドの方でも既に取り上げられているのだが、このアルバムは漏れていたので敢えて入れてみた。

本項のテーマに沿って取り上げたいのは「Electric Counterpoint」の方だ。
彼の代表作である『18人の音楽家のための音楽』と同じ感覚をギターのみのアンサンブルで感じ取ることができる。

個人的にライヒ作品の面白いところを1つ上げるなら、これらの作品はアコースティックな楽器を用いて演奏されているにもかかわらず、あたかも電子音のような響きで我々の耳に届いてくる点だ。

「Electric Counterpoint」の場合、ギターの音はほとんどが連続したスタッカートで構成されており、生ギターの持つ暖かみのある響きは見事に取り払われていて、途中、本当にただのパルス音にしか聴こえないような部分もある。
ギターが本来持っている美しい音色を敢えて殺すように書かれた曲が、結果的に従来のギター曲では生み出しえなかった響きを引き出すことに成功したわけだ。

Walk off the Earth

変則的になるが、Walk off the Earthというグループによるこのパフォーマンスも紹介しておきたい。
YouTubeで爆発的に話題になったから知っている方もいると思う。
演奏している曲はカヴァーなのだが、1本のアコースティックギターを5人で演奏するという発想も、既存の概念を打ち壊すものと言えはしまいか?


ジンボ アラタ
Author ジンボ アラタ 90 Articles
東京都出身。日本工学院八王子専門学校コンピューターミュージック科卒業。その後は音楽とは別の道へ進むが、再び音楽の世界になんらかの形で関わって行こうと決意し、2007年より音楽イベントのオーガナイズを始める。