ライブハウスは何故儲からないのか

新宿たかのや、閉店

2011年8月末、新宿にあるライブハウス「たかのや」が閉店した。
少し前に11月一杯で閉店するという話をTwitter上で知り、驚きながらも「それなら閉店前に遊びに行こう」と決意していたのが、それも叶わぬまま予定を3ヶ月繰り上げての閉店。残念である。

ライブハウスの経営というのは大変にシビアなものである。
たかのやの閉店理由について、公式発表では「諸事情により」という言い回しが使われているが、やはり経営が苦しかったという部分は小さくなかったのではないかと想像する。

別にたかのやの経営姿勢が良くなかった、やっているライブが面白くなかったなどと批判するつもりは毛頭ない。そもそもそこまで言い切れるほど足繁く通っていたわけではないのだから。

私自身も現在はライブハウスに勤務する身であり、今この業界全体が危ぶまれているという話をよく耳にする。そしてその危機をリアルに感じる時というのは決して少なくない。だからそう思うのだ。

それはそうと、そもそもライブハウスとはどのようにして収益を上げているのか。何故儲からないのかを考える前に、実に根本的な部分をここでおさらいしてみよう。

ライブハウスの収益の内訳

店やイベントにより多少差はあるが、基本的にライブハウスの収益となるのはチケットと飲食物の売り上げだ。映画館などと同様と考えても構わないだろう。
お客さんは観たい公演がある日にチケットを買って入場し、中で飲み食いがしたくなったらさらにお金を出してフードやドリンクを買うわけだ。

一つ例示してみよう。
(※ライブハウスの公演は入場時に1ドリンクオーダーが義務付けられている場合が多い)
(※ここではドリンクは500円で統一して考える)
チケットが2,000円+1ドリンク500円かかる公演にお客さんが50人来て、そのうち半数の25人がドリンクを1杯おかわりしたとしよう。

つまり(チケット2,000円×50枚)+(入場時ドリンク500円×50杯)+(セカンドオーダー500円×25杯)=137,500円がその日の売り上げとなる。

これくらい売り上げれば1日に勤務するスタッフが5人程度(受付、ドリンクカウンター、PA、照明、ブッキング、等々)のライブハウスであれば、人件費、光熱費、フード、ドリンクの原価などを差っ引いても、まぁなんとか黒字にはなるであろう。

が、そうは問屋が卸さないのがライブハウスの経済システムなのだ。
1日の売り上げのうちの大半を占めるチケットの売り上げは、ライブハウスが独占するものではなく、出演者と共有するシステムが取られているからである。

店、出演者、集客数などにより率は大きく変わるので一概には言えないが、ここではワンマン公演だったと仮定して、チケット売り上げの20%が出演者に渡る形で精算したとしよう。

するとチケット2,000円×50枚=100,000円のうち20%、つまり20,000円が売り上げから引かれることになるので、その日の最終的な売り上げは117,500円ということになる。

どうだろうか。ちょっと厳しくなってきた感じだ。とはいえ、これはあくまで一例、それも比較的良い例である。観客動員が20人、30人の時もあるし、もっと少ない時もある。もちろん多い時もある。だがキャパ100人~300人程度のライブハウスで、1日平均50人の動員をキープしている所は恐らく少数、それもかなりの少数であろう。

これは現場の人間として、そして長年ライブハウスで遊んできた人間としての感覚であり、恐らくそうは間違っていないであろう。となれば赤字を叩く日も決して少なくはないということだ。

赤字が増えれば当然経営を続けるのは難しくなる。中には閉店する店も出てくるだろう。(繰り返すがたかのやが赤字続きだったなどと中傷するつもりはない)

なぜ観客動員が伸びないのか?

理由は色々考えられるが、その1つにはライブハウスの数が増えすぎたことにあると私は考えている。
全国のライブハウスやコンサートホールを紹介するLiveWalkerというサイトがあるのだが、登録されている全国2700軒余りの会場のうち、なんと700軒以上が東京に集中している(2011年9月現在)。
と言っても、中には既に閉店しているお店や、ライブ営業をごく稀にしかしていないバーやレストランタイプのお店なども含まれるので、ライブハウスの実数はそこまでではないだろう。

それにしたって東京の一極集中ぶりは異様である。これだけの数が集まってしまうと、それぞれの店が出演者を確保するだけでも一苦労だ。当然ながら出演者も無しに興行は打てないし、打てたとしても魅力のある演者ばかりに出演してもらえるわけではない。

映画だったらフィルムのコピーが出来ても、人間をコピーするわけにはいかない以上、そしてライブハウスがこれだけ多く存在している以上、全てのライブハウスが魅力ある演者ばかり呼んで公演を打ち続けるのは不可能に近い。必ずどこかにしわ寄せが来る。

例えば「たかのや」があった新宿に限定してLiveWalkerで検索してみると、そこだけで123件が該当した。「西武新宿線」といったワードで引っかかっている区外のお店もあるので実数はそれほどではないにしても、やはり結構な数である。

実情は色々あったにせよ、たかのやを始めとするここ数年で閉店したライブハウスの多くは、こうした実情によって起こる熾烈な競争に疲弊していた部分は確かにあったことと思う。できれば酒でも酌み交わしながら店長さんに話を聞いてみたいものだが…

ライブハウスが抱える問題

さて、ここまででライブハウス業界を取り巻く危機、その一端はなんとなく感じられたのではなかろうか?
さして推敲もせずにつらつらとライブハウスの実情を綴ってきたわけだが、ここに書いたのはあくまでライブハウスが抱える問題の一側面に過ぎない。今回は比較的「弱者」の側面を強調した内容となったが、世の中にはライブハウスを「搾取する側の強者」として批判する声もある(強者というよりハイエナレベルの扱いをしている手厳しい批判もある)。

この話はシリーズ化して、次回はそういった側面からの話を書ければと思う。
いつになるかはわからないが、できるだけ熱の冷めないうちに書いていきたい。

追記:2017年7月

この記事を書いてから、6年近くが経過した。
livehouse.TVというサイトによると、東京都だけで331件のライブハウスが登録されている。


ジンボ アラタ
Author ジンボ アラタ 90 Articles
東京都出身。日本工学院八王子専門学校コンピューターミュージック科卒業。その後は音楽とは別の道へ進むが、再び音楽の世界になんらかの形で関わって行こうと決意し、2007年より音楽イベントのオーガナイズを始める。